2010年9月号 骨相学
学問の歴史をみると、ときどき滑稽な学説が大まじめに論議されて、世の中を騒がせることがある。その最右翼に骨相学がある。
19世紀に流行った骨相学とは、頭蓋骨の形から脳の働きがわかるという説である。この説を最初に言い出したのが、ウィーンの医師フランツ・ガル(1758-1828)であった。
古来、脳の働きの中枢は脳室(脳の中の空洞)にあると信じられていた。ガルはそれを完全に否定して、大脳の実質にこそ中枢があるのだと言った。そこまでは正しかったのだが、大脳は精神活動に対応した27個の器官の集まりで、器官とは色、音、言語、名誉、友情、芸術、哲学、盗み、殺人、破壊、謙虚、高慢、社交、粘着など精神作用に対応する単位であり、それらが有機的に結合したものが大脳であると言った。
当然、それぞれの器官には個体差がある。それが頭蓋骨の形に現れるというのがガルの骨相説であった。頭蓋骨から人の性格や精神的素質が診断できると主張したことから、頭骨検査が大流行となり、たちまち社会的に大きな反響がおきた。秀才の頭、犯罪者の頭などが骨相学者によって診断されたのである。
骨相学は、大脳の機能局在を示唆して現代の大脳生理学の先駆けになったが、動物実験や電気刺激を使った生理学的研究で大脳の働きが明らかになっていくにつれてガルの誤りが指摘され、衰退していった。
最後にガルの名誉のために、ガルはきわめて優れた脳神経学者で、現代の大脳生理学の先駆けとなる発見をいくつも残していることを追記しておこう。それだけに人々は骨相学の過ちをなかなか見抜けなかったのである。
酒井シヅ(順天堂大学名誉教授)
投稿者 : 2010年08月15日 09:53 : 無断転載を禁じる
