2009年12月号 喉仏とアダムのリンゴ

近年、外観だけでは、男女の違いが分かりにくくなった。近づいて見ても、男か女か判断しかねることがある。しかし、正面からみると、決定的な違いがある。男には喉仏があるからだ。

喉仏とは、解剖学的にいえば、喉の骨、すなわち甲状軟骨の上縁中央部が前に張り出した部分である。
思春期の声変わりと同時にこの突出が目立ってくる。男の第二次性徴である。

この高まりを西洋では昔からAdam's Apple とよんでいる。
アダムのリンゴである。語源は、予想されるように、聖書のエデンの園の話が絡んでくる。
アダムとイブが禁断の実を食べたとき、神に咎められたアダムが怖れのあまり、慌てて果物を飲み込んだ。
そのとき半分が喉につかえて、高まりになったのだ。この高まりは、全人類の男にその罪を忘れないようにと刻印したようなものである。

ところで、日本人が「アダムのリンゴ」の言葉に最初に出会ったのは『解体新書』を翻訳しているときであった。杉田玄白たちはこれを「結喉」と訳して、アダムを無視した。
『解体新書』の翻訳では、キリスト教に関係ある言葉や記号には細心の注意を払って避けている。発禁になるのを恐れたからである。
それ以来、日本では喉仏を「アダムのリンゴ」と呼ぶことはなかったのである。

酒井シズ(順天堂大学名誉教授)

投稿者 : 2009年11月15日 09:21 : 無断転載を禁じる